ハケの森 野川

 大久保快哉 


 武蔵野台地に連なる国分寺崖線のハケの森と呼ばれる雑木林は、近くは府中、小金井、三鷹、調布などの各市を経て世田谷区の成城付近に至る約20kmに及ぶ広葉樹と針葉樹の樹林帯である。そこには多くの貴重な動植物が見られ、オオタカを頂点とする多くの鳥類をはじめとする様々な生きものの緑のオアシスとなっている。

崖線の雑木林は適切な管理がされず放置されるようになったため、最近では樹木が繁茂し林床が暗くなって、そこを棲み処として来た動植物が種類によっては衰亡の一因になりつつある。

そのような環境ではあるが、ハケの森の雑木林は豊富な湧水に恵まれ、クヌギやコナラ、ハンノキなどを生育の場としているチョウ類のなかに、ゼフィルスと称するミドリシジミの仲間がいる。オスの翅が金緑色に輝くミドリシジミは、ハンノキに依存しているため、野川公園や石神井公園には6月ごろに発生しクリの花などに飛来する。
クヌギやコナラを食樹とするゼフィルスには、この他にもアカシジミ、ウラナミアカシジミ、ミズイロオナガシジミ、オオミドリシジミなどがある。

オオミドリシジミは1995年6月に、三鷹市大沢の国際基督教大学の敷地内でオスとメスが記録されていたが、2018年6月に、同地点に近い崖線下の野川公園で地元の昆虫写真家石川勇夫氏によって撮影され、小金井市東町からの初記録となった。
今回の生息地は、殆んど人が入れないような放置林に近い所で、そうした環境が守り残されて来たためだと思われる。崖線下の野川公園には、コナラ、クヌギ、エノキ、シラカシ、ハンノキ、アカメヤナギその他の大小の樹木が多く、チョウもいろいろ見ることができる。

 ゴマダラチョウ、アカボシゴマダラ、ヒカゲチョウ、クロコノマチョウ、スジグロシロチョウ、ジャコウアゲハ、クロアゲハその他が見られる。
小さなジャノメチョウの一種であるヒメウラナミジャノメは、野川公園周辺では普通に見られるが、川縁りや緑地がこのチョウの生息に適しているためと考えられる。
ヒオドシチョウは毎年とは言えないが、野川公園や武蔵野公園のエノキやアキニレに5月頃幼虫群を見ることがあるが、ムクドリやアシナガバチなどの天敵の害を受けることが多い。

 第一調節池の東端にあるヨシの小さな群落には、ギンイチモンジセセリがいる。
このヨシの生えている所と野川流域の土手などにしか見られない種類で、飛翔力の弱いこのチョウの生息地や調節池近くの草地にはミヤマチャバネセセリも見られる。
この地域には新しい道路の建設が計画されているが、か弱いもの言えぬ動植物のためには、小さな草地やヨシの群落などもできるだけ永遠の棲み処として残してやりたい。
ハケの雑木林や崖線下の湧水による里山と、野川流域の自然はなるべく大切にしたいと思う。

 本文に使用したチョウの写真は、新里君江氏が撮影されたものと、石川勇夫氏によるオオミドリシジミの写真であり、併せてお礼を申し上げる。

【筆者のプロフィール】 日本自然保護協会自然観察指導員 、 日本チョウ類保全協会会員 、 野川流域連絡会委員

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